奇妙な飛行機雲

私は、いつだったかは忘れたが、少なくとも5年以上前に、朝のマイカー通勤途上の空が以前よりも白くかすんでいることに気付いた。その日だけのことではなかった。夏から初秋の晴れの日には透き通っているはずの青空が、まるで薄白いフィルターをかけられたみたいにかすんでいる日が多いことに疑問を感じたのだ。

 

それまでは、単純に快晴ではなく薄い雲に覆われた淡い水色の空模様の天候に過ぎないか、光化学スモッグか、黄砂のどれか漠然と疑問にも思わない残念な空模様の日々が多いことを何となく感じていただけだった。しかし、ある日の朝に空を見たときに不自然な違和感で「おかしい」ことに気付いた。その日の青空の手前にも広がっていた薄白いかすみは、人工的に交差した何本もの雲の直線が膨張したように広がっているように見えたからだ。明らかに不自然だった。

 

その日以降、より意識的に空を観察するようになった。すると人工的な雲の直線がまさに形成されるところを発見した。それは上空に小さく見える飛行機の飛行軌道に描かれる白い筋だった。同時に2機の飛行機が白い筋を引っ張りながら飛んでいた。素人目にも、その飛行角度や方向が民間の航空機の軌道ではないことが分かった。

 

当然ながら、最初はいわゆる飛行機雲だと思った。しかし、その色や濃度や挙動は、私が知っていた飛行機雲とは違っていた。私は子供の頃から空を見て過ごすのが好きで、飛行機雲もよく眺めた。確か、普通の飛行機雲は、雨が降る前の湿度が増した天候状態のときに現れ易いとされる意図して噴出されるものではない現象だというのが私の認識だった。例外として、空に文字を描くデモンストレーションがあることも知っていた。しかし、私が何度となく好んで見入っていた飛行機雲は、青空に透ける白い筋で、飛行機から離れるとやがてぼんやりと広がりながら「消えていく」のだった。

 

それに比べると、私が違和感をもって眺めているこの別種の飛行機雲は、濃い白色で、飛行機の尾から噴出されているように見え、長々と続き、消えることはなく、やがて横に幅を広げながら拡散して、だんだんと青空を薄白く覆っていくのだった。これは明らかに私が知っている、私の好きな飛行機雲ではなかった。

 

その日以降、意識すればするほど、頻繁に、そのおかしな飛行機雲を見た。透き通った朝の青空に何本も何本も、時には碁盤の目のような交差模様を作るように、白い筋を引っ張って、その白い筋たちがだんだんと太く広がって、やがてはお互いがくっつき合うように空全体を薄白く多い尽くすのだった。

 

私たちを心地よくさせるせっかくの透き通った青空をどこかの誰かが白く濁らせているのだ。私が住んでいるのは日本だ。住民である私たちに何の説明も無く、誰が何のためにやっているのかも分からない、空の人工的な白濁化が行われているのだ。私たちが暮らす上空への明らかな作用を施しているこの活動について、少なくとも国には説明をする義務があり、私たち住民には説明を受ける権利があるはずだ。

 

この不可解な人口操作現象を、ネットを中心に調べてみると、「ケムトレイル」と呼ばれるものに合致することが分かった。世界中の先進国を中心に頻繁に観察されている現象で、米国軍機による化学物質の噴霧行動であるとする認識を主として、有害物質の撒布であるとか、気象操作であるとか、ただの飛行機雲に対する陰謀論であるとか、科学的検証によるものや実際の関係者による証言とされるものを含めて、いくつかの見解があるようだ。

 

ケムトレイルの意図は、当然ながら行為主体には認識されているものの、確固たる説明や証拠を与えられていない我々一般大衆にとっては、少なくとも今のところは、その正体や目的を結論づけることは出来ていない。

 

ケムトレイルを認識して以来、私にとっては、その正体が分からないまま見過ごしたり許容できたりするものではない、不可解で不気味で嫌悪感のある現象であり続けている。私たちの空を勝手に何の説明もなく、一方的な理由によって濁す、この行為は、まるで、私たちが、国家かもしくは他の支配権力によって有無を言わせず奴隷のように服従させられているかのような感覚さえ芽生えさせてしまう。

 

私は、このような類の不愉快な事柄を、すすんで誰かに広める気がするタイプの人間ではない。たまに気が向いたときに、気が向いた人にだけ、思い立ったように話してみることがある。そこで驚くのは、誰一人として、ケムトレイルという言葉はもちろん、その存在を知ることもなく、それ以前に、自分の暮らす場所の空に引かれる不自然な飛行機雲や不自然な雲の広がりにさえ気づいたこともない、ということだ。現代の生活では、空を見上げることさえ、あまりしないのだろうか。

 

ケムトレイルが何なのか、誰が撒いているのか、何故説明がなされていないのか、を調査究明することは、当然ながら必要なのだろうが、それ以前に、私が一番重要だと思うことは、「気づく」ことだ。異変に気づき、違和感を持ち、疑問を呈し、意識する。これはケムトレイルだけに限ったことではない。

 

知らず知らずのうちに、国家や大資本や見えない何かの大きな権力の実験対象となり、奴隷となり、搾取されるのを許容したくないのであれば、まずは気づくしかない。相手は底なしの資金と科学技術と巧妙な心理操作と脅しを駆使してあなたたちからエネルギーを搾取することで権力を維持するのだから。

 

少なくとも私は、騙されたくないし、騙されたままでいたくはない。